広島県_巨大地震の危機・備え_南海トラフ大地震_中区舟入地区・呉市

●Yahoo!ニュース 毎日新聞 2012年09月03日
「備え」はいま:巨大地震の危機/3 急傾斜地、老朽家屋にリスク /広島http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120903-00000199-mailo-l34
 両脇に石垣がそびえる急な坂、車がやっとすれ違えるほどの生活道路……。「ブロックやコンクリ片が落下する恐れがあるので車の駐車はご遠慮下さい」。呉市両城地区の老朽化した民家の塀に、こんな張り紙があった。
 戦前から軍港として栄えた呉。1943(昭和18)年には人口40万人を突破し、全国10大都市の一角を占めた。平野部は狭く、山を切り開いた急傾斜地に人が住み始めた。風情が残る両城地区は、映画のロケ地にも選ばれる人気観光スポットだ。しかし、古い民家や石垣が続く町並みは、災害時の脆弱(ぜいじゃく)性をはらむ。芸予地震(01年)では市内で全壊建物72戸、半壊が304戸に上り、急傾斜地に被害が集中した。
 「やむをえんのですよ。平地に住めればいいんですが」。市街地を一望できる高台に住む森川秀夫さん(84)が漏らした。自宅は築40年以上。11年前の地震では無事だったが、谷向かいの急傾斜地は崩落し、現在はコンクリート打ちの無残な山肌をさらす。森川さんの自宅は高さ約3メートルの石垣の上に建つ。妻にも「早く補修した方がよい」と度々言われる。「下の家に迷惑は掛けちゃいけん」と近く工事をするつもりだ。費用は100万~200万円を見積もる。
 老朽化した空き家も防災上の障害になる。揺れで倒壊すれば近隣家屋を巻き込む恐れがあるからだ。市内の空き家率は17・1%で、全国平均の13・1%を大きく上回る。市の推計では災害で倒壊の恐れがある築50年以上の木造建築2万7000棟のうち、空き家は約4600棟に達する。
 市は死者88人を出した豪雨被害(1968年)の翌年から、急傾斜地で2メートルを超える石垣の補修整備に融資する制度を備えた。50万~500万円を限度に補修費の9割を融資し、利子は市が負担する。しかし、申し込みは災害があった年に集中。芸予地震があった01年度は119件に上ったが、翌年からは一桁続き。東日本大震災が発生した11年度は1件のみだった。市土木課は「地区によっては車が入れず、資材や土砂の搬出入で場合によっては3~5割費用がかさむ」とこぼす。工事費が住民の防災意識の足かせになっている。
 空き家対策も壁にぶつかっている。昨年度から空き家撤去に最大30万円を助成する制度を始めたが、文書で所有者に依頼しても、半数は返答がない。相続などの関係で所有者が分からないままの家も多く、打つ手が無い。
 市危機管理課は「民有地には手出しできない。防災・減災の行政の役割は限定的だ。頼りすぎず、一人一人が自助、共助の原則を忘れないでほしい」と訴える。【吉村周平】=つづく

●毎日新聞 2012年09月01日
「備え」はいま:巨大地震の危機/2 市街地の津波対策遅れ /広島http://mainichi.jp/area/hiroshima/news/20120901ddlk34040601000c.html
 道路の割れ目から、水が勢いよくあふれた。太田川の分流、本川と天満川が東西を流れる中区舟入地区は7月、大雨で2度にわたって道路の冠水や、家屋浸水の被害に見舞われた。生花店主の中村敦さん(45)=中区舟入本町=は「この辺りは土地が低い。川に挟まれているから怖い」と表情を曇らせた。
 舟入地区は路面電車が真ん中を貫き、両側にマンションや民家が建ち並ぶ住宅街だ。太田川下流デルタに形成された広島市街地は、古くから水害に悩まされてきた。舟入地区は土地が低い場所が点在して冠水しやすく、排水設備の能力も低い。下水道整備が早かったデルタ地域の多くの雨水管は、処理能力が時間雨量20ミリ程度。「5年に1度」クラスの大雨(同46ミリ)には対応できない。市は舟入地区を含め、中、南、西3区のデルタ地帯や沿岸部で「10年に1度」クラスの大雨(同53ミリ)も処理できるよう増強を進めているが、「津波の場合どこまで機能するか未知数」(下水道局)。南海トラフ大地震で津波が川を逆流すれば、浸水被害の危険性が高い。

●毎日新聞 2012年08月31日
「備え」はいま:巨大地震の危機/1 離島の患者、足確保課題 /広島http://mainichi.jp/area/hiroshima/news/20120831ddlk34040404000c.html
 南海トラフを震源とする最大クラスの地震による被害想定が公表された。県内では最大約2万4000棟が全壊し、死者約800人という甚大な被害想定が突きつけられた。東日本大震災の被災地から離れた県内では、「備え」の意識が薄れていないか。9月1日の「防災の日」に合わせて、減災や防災の現状を取材した。
 「これが、ないと息ができんが、島では手に、入らんし……」。中崎晃雄さん(84)=大崎上島町=は、言葉を途切れさせながら、のどに埋め込まれた直径約2センチの丸い樹脂製装置を指した。昨年10月、自力呼吸が困難になり、切開して埋め込んだ呼吸器だ。定期的に呼吸器内のたんを吸い出さないと窒息してしまうため、1日に3回、電動吸引器を使用している。
 この吸引器が使えなくなると命にかかわる。過去に一度、誤って部品を捨ててしまい、島外の業者に連絡して届けてもらった。離島の大崎上島は、船が島民の生命線。大災害で島が孤立したら−−。吸引器など機材を持って逃げることも、高齢の中崎さんにとっては負担だ。